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外来種の除草、冬季のヨシ刈りなどによって、自然の状態がどのように変化していくかを経過観察し、
管理方法を順次検討、見直していきます。長期的には、希少種を呼び戻すなどの目標設定も検討
します。
2012年度は、植生調査の専門家と共に、①植生調査、②昆虫調査、③ヨシ調査を実施しました。
その結果を以下にご紹介します。

1.調査の目的 
荒川最下流部に位置する小松川自然地(東京都江戸川区)では、2000(平成12)から2004(平成16)年にかけて、荒川下流河川事務所により自然再生事業が行われた結果、現在では水辺の自然環境が少しずつ回復しつつあります。今日では、大都市にありながら豊かな自然を有する『里川』として、生物多様性の保全及び身近な自然体験活動にとって重要な場所になっています。
しかし、当地においても、外来植物の侵入などによる生物多様性の減少が心配されており、今後適切な管理方法によって生物多様性を回復していくことが課題になっています。そこで今回、小松川自然地の自然環境を保全していく上で特に課題になると考えられる「セイタカアワダチソウ草地」と「ヨシ原」について、これまでに行われている植生管理方法を評価し、これからの管理方法を検討するため、植生等の調査を行いました。

調査の具体的な目的は以下の通り。

   セイタカアワダチソウに対する複数種の管理方法が、セイタカアワダチソウ、在来植物、昆虫等の小動物にどのような影響を与えるのかを明らかにする。
上記植生管理が、昆虫等の小動物にどのような影響を与えるのかを明らかにする。
冬期のヨシ刈りが、翌年のヨシと他の植物種にどのような影響を与えるのかを明らかにする。
   
5月、7月、9月、11月

植生管理を行わない「放置区」、セイタカアワダチソウを抜き取る「抜き取り区」、植物をすべて刈り取る「刈り取り区」、それぞれ10m×10mの調査区を設けた。各調査区内の任意の地点に、更に2m×2mの3個の方形区を設けた。

植生調査の調査区


・出現した植物種名
・植物種の植被率(%)、最大自然高(cm)、株数
・植生断面図、投影図
※7月、11月は、出現した植物名のみ調査した。

   
5月、7月、9月、11月

植生調査と同様の3つの調査区(10m×10m)

昆虫の姿や卵、音声などを探索し、種ごとに個体数と行動を記録。

  
9月

前年に植生管理(ヨシの刈り取り)を行わなかった「放置区」、前年1月にヨシを刈り取った「冬期刈り取り区」を設け、植生調査を実施した。

ヨシ調査の調査区

セイタカアワダチソウ草地における植生調査と同様。

5月調査(調査区1)

5月調査(調査区3)
 
9月調査(調査区1)

9月調査(ヨシ調査区)

   
植物種の多様性は、抜き取り区で最も豊かで、次いで放置区、刈り取り区では最も種数が少なかった。
いずれの区も、セイタカアワダチソウとヨシが群落の上層を占め、中層は時期によってナガハグサ、ハルジオンなどからアキノエノコログサへと変化し、下層にはギョウギシバ、カラスノエンドウ、ヤエムグラなどが優占した。イネ科・広葉草本混在型草地であり、土壌がやや湿潤?やや乾燥した草地であることがわかった。
セイタカアワダチソウは各区において出現し、優占種となった。

●放置区(5月断面図・投影図)
  
●放置区(9月断面図・投影図)
  
●抜き取り区(5月断面図・投影図)
  
●抜き取り区(9月断面図・投影図)
  
●刈り取り区(5月断面図・投影図)
  
●刈り取り区(9月断面図・投影図)
  

5月、9月の植生調査の結果より、植生管理(セイタカアワダチソウの抜き取り・刈り取り)の影響を明らかにした。
植被率は、各区において5月から9月にかけて増加した。増加量は、放置区では1.1倍、抜き取り区では1.04倍と軽微であったが、刈り取り区では1.5倍と大きかった。
最大自然高は、5月から9月にかけて抜き取り区と刈り取り区でそれぞれ1.63倍と1.43倍に成長した。放置区での成長率は2.07倍と大きかった。
株数は、5月から9月にかけて放置区と抜き取り区では70%に減少した。刈り取り区では2.58倍に増加した。

セイタカアワダチソウ
株数の変化

セイタカアワダチソウ
植被率の変化

セイタカアワダチソウ
最大自然高の変化
本調査の結果から、「抜き取り」は植被率・株数の減少率がもっとも大きく、セイタカアワダチソウ防除にもっとも効果が高い管理方法であることが読み取れる。「刈り取り」は「抜き取り」に次いで防除効果が高かった。「放置」管理ではセイタカアワダチソウは抑制されなかった。防除においては、各方法のメリット・デメリットと、管理面積、作業人員や道具の数といった諸条件を総合的に勘案して管理方法を選択し組み合せることが望まれる。
※本種は刈り取られると萌芽して再成長するため、茎数はかえって増加する。「刈り取り」区の植被率の増加率が「抜き取り」区よりも大きかったのは、萌芽によって茎数が増加したことによるものと考えられる。
   
確認種数は、放置区では35、抜き取り区では40、刈り取り区では43であった。確認種は、草地における代表的な種群であるバッタ・キリギリス類が、各区の出現種のそれぞれ31.4%、32.5%、18.6%を占めた。このほかには、テントウムシ類、ハムシ類、カマキリ類、アブ類といった、草地や畑などの開けた環境に生息する種が多く確認された。
各区の種組成や個体数は共通性が高く、今回の調査では明瞭な違いを見出すことはできなかった。今後の植生管理により、調査区ごとに植生の顕著な違いが生じた際に、昆虫相がどのように変化するかが注目される。

  
放置区、冬期刈り取り区とも、確認種はヨシ1種であった。他の植物種は、冬期刈り取り区で縁辺部付近にカナムグラが認められたのみで、各区ともにヨシの純群落であった。最大自然高は放置区では290cm、冬期刈り取り区では320cmであった。
放置区の植生断面図

冬季刈り取り区の植生断面図


ヨシの密生度は、放置区では4㎡当たり185.3本、冬期刈り取り区では164本と、顕著な違いは認められなかった。ただし、放置区には、このほかにヨシの枯死茎が林立していたため、群落内部は過密であった。最大自然高は冬期刈り取り区の方が約50cm高かった。冬期の刈り取りで群落内が明るくなったことにより、ヨシが良好に生育した可能性が考えられる。

    刈り取りは、一定の防除効果を期待でき、費用対効果が高いとされている方法である。刈り取りのみでセイタカアワダチソウを効果的に抑制するには、年2回の刈り取りを行う。1回目は6月頃に刈り、刈った後は茎と葉を再生させて地下部の貯蔵物質を消費させる。2回目は、地下部への貯蔵が始まる9月頃に刈る。これによりセイタカアワダチソウが衰退し、草地内での優占度が低下し、多様な植物種が生育できる草地となる。ただし、刈り取り管理での費用対効果の高さは、草刈機などの道具を存分に活用できるかに依存している。道具または道具を稼働できる人員が十分でなければ、費用対効果が高いとは言えない場合がある。

抜き取りは、地下茎を除去できるので防除効果が高い。この方法は手作業に依存しているので、広い面積に適用するのは難しいが、実施区域を限定して人員を集中させれば、セイタカアワダチソウを超低密度化できる利点もある。当地のように、防除に大勢のボランティアの参加を期待できる場合に適した方法である。どの時期に実施しても防除効果が高いので、実施主体の事情で実施日を設定できるのも好都合である。

ただし、抜き取りは刈り取りよりも個体の見逃しのリスクが高い。見逃した個体が種子を実らせることは避けたい。作業参加者への作業方法の教示を工夫する、同じ区域で抜き取りを複数回行い作業の完成度を高めることが重要である。また、セイタカアワダチソウの優占度が高い場所では、セイタカアワダチソウを抜き取った直後に他の植物がほとんど残っていない場合がある。裸地が形成されると、ヒメジョオンやオオブタクサなどの外来キク科草本やメマツヨイグサが繁茂しやすい。潜在的に優占種になる可能性がある外来植物を併せて防除することも検討したい。

    調査地のヨシ原は、荒川本流の感潮域にあるので、枯死体などの地上堆積物は潮汐によってヨシ原外へと運び出されていく。そのため、刈り取りなどの管理をしなくてもヨシ原が陸化しにくく、ヨシ原の状態が維持されやすい。この点は、池などの閉鎖水域に立地するヨシ原が急速に陸化していくのとは対照的である。

しかし、自然再生のために設置されている木工沈床は、ヨシ原を洪水から守り成長を助けている一方で、植生を固定化させる存在にもなっている。ヨシ原は洪水による撹乱を受けないので、遷移の初期相へ戻る機会がなくなっているものと思われる。そのため調査地の植生は、遷移の初期相である「被度が低く、草高が低い湿性草本群落」がほとんど存在しない単調なヨシ原になっている。現在、調査地周辺で確認されているイセウキヤガラなどの湿性草本は、今後ヨシ原が発達することによって被覆され、生育地点が縮小していく可能性がある。

◇ヨシ原の維持
当地のヨシ原は潮汐による影響で陸化しにくいので、当面はヨシ原を現状維持するための植生管理を行う必要性は低いと考えられる。ただし、調査結果では、冬期刈り取り区では、放置区よりも草高が約50cm高かった。冬期の刈り取りによってヨシの生育条件がより良好になったものと考えられる。この結果からは、当地のヨシ原は、特に水流の影響を受けにくい岸側や群落内部では健全度のピークを過ぎている可能性がある。今後、枯死桿の増加、倒伏、茎が細くなるといった傾向が顕著になった場合には、一度刈り取りを行いヨシ原の若返りを図ることが望ましい。

◇多様な塩性湿地タイプの保全
河口域の開けた泥地に生育するイセウキヤガラ(カヤツリグサ科)は、東京都レッドリストで準絶滅危惧(区部)に選定されており、生息の動向が注目される。潮汐の影響を受ける場所で湿性植物が生育している環境を塩性湿地と言い、ヨシ原は塩性湿地のひとつのタイプである。ヨシ原以外のタイプの塩性湿地の回復を管理目標に含めることにより、荒川下流域本来の湿地植生へと近づけることができる。

カヤツリグサ科の植物は、ヨシよりも草高が低いので光を巡る競争ではヨシよりも劣勢になる。カヤツリグサ科の群落を回復させるには、ヨシの被度を下げて遷移の初期相に戻す必要がある。洪水による自然撹乱が起こらない状況下でヨシ原を部分的、一時的に衰退させるには、人為的な攪乱を加えることになる。人為的攪乱としては、ヨシの成長期にあたる春から夏に刈り取りを行うのが効果的である。