~生態系を守る流域住民のネットワークを
5月27・28両日、大滝村栃本の民宿「甲武信」において、「あらかわ流域 水環境シンポジウム」が開催された。荒川の全流域住民の連帯と協力を進めよう!という呼びかけで、源流・中流・下流から、35名が参加して、熱心に討論を行った。翌28日は、心配された天気もからりと晴れて絶好の登山日和。入川から、東大演習林をを通って『荒川起点』まで歩き、「健脚組」はさらにその上の原生林の登山道を尾根まで登って、東大演習林となっている原生林の観察地点を見学した。
このシンポジウムは、大滝村の「源流の森を守る会」と中流の「荒川流域ネットワーク」及び、「荒川クリーンエイド・フォーラム」の三者の共催で行われ、大滝村からは村長や村議会議長も参加。東京大学演習林の林長、川を管理する荒川上流工事事務所と荒川下流工事事務所からもそれぞれ担当課長等も参加し、さらに、元林野庁職員の方も一般参加して、大変有意義な議論となった。
会議の進行役・コーディネーターは、山林問題に詳しい彩の国ふれあい森友の会理事の永越信樹さんにお願いした。
まず、大滝村村議会議長の山中敬久さんの話。林業は残念ながら経営として成り立たなくなっており、村内の林業従事者は18人、それも十分に仕事がない。間伐に対する県からの助成金はなくなった。杉・檜は出荷しても採算が取れない。伝統家屋の一貫建築など新たな活路を模索している。環境保全のために下流のみなさんから基金を出していただき、大滝村としてそれを有効に活用する方法を検討中である。東大演習林ともタイアップして、大滝村をアピールする方策を進めたい。
次は東大演習林の仁多見林長さん。大滝村の面積は約3,300ha、そのうち約6,000haが東大演習林で、貴重な原生林が多く残っている。先進工業国である日本の森林率が約70%あるというのは世界の奇跡で、主に急峻な山地であることによる。東大では、これまでは学術研究が中心で「一般の人々は入っていただかなくて結構」という立場だったが、今後は、目的別にゾーニングして、遺伝子資源保存のため一切立ち入らない部分や案内しながら見てもらう部分などを設ける。さらに、人が容易に立ち入れない場所でも、ビデオカメラなどを設置して、パソコンで原生林の疑似体験ができる仕組み(サイバー・フォレスト)を準備中である。将来、奥の原生林調査や、枝打ち作業などをホームページで募集して実施するようなことも検討していきたい。
むさしの里山研究会代表 新井 裕さんの話。寄居町は荒川の中流部に位置し、中流の田んぼや里山から、無農薬栽培によるきれいな水を下流に送ることで、荒川水系のきれいな水が保たれる。休耕田を放置すると里山の自然が荒れてしまうので、12年前、それを借りてトンボ公園を作り、子どもと大人が楽しめる場所を作った。その次に、一人1万円の会員を募って休耕田を借りて米を作る運動を行っている。田植や稲刈りを体験できて20㎏の米が分けられるということで約40人の会員がいる。次は、トンボ、カゲロウ、バッタなどの指標生物を決めて、上流から下流までの川と河川敷を調査する運動を市民のネットワークで行いたい。市民と行政の対等なパートナーシップで、作業も分担し、お金も出してもらうという関係を作りたい。
荒川下流工事事務所 田畑事業計画課長の話。1994年の荒川放水路通水70周年記念行事を契機に様々な市民参加を進めている。荒川クリーンエイドもその一つで、ゴミも水質も下流だけでなく、上流・中流と一緒に考えないと解決できない問題である。また、説明責任に重点をおき、情報提供を積極的に行っている。その一環として、荒川下流工事事務所のとなりに知水資料館(amoa)を設置。この館の行事の一つで「子ども環境会議(通称ヤゴネット)」が上流のことを知ろうということで、大滝グリーンスクールに泊まり、浦山ダムを見学している。荒川の水系として考えることが重要と考え、下流部の防波対策の伝統工法による護岸工事に使う木杭とソダを源流である大滝村から購入することを検討している。現在は一般市場から取り寄せているが、大滝村で生産できれば、それを使うことは可能である。
荒川上流事務所 津久井調査課長の話。平成9年に河川法が改正され、治水、利水に加えて、環境保全が任務の一つとなった。カスリン台風級の水害に耐えうる堤防は全体の1割ほどしかないのに、なぜ環境保全に予算を使うのかという批判もあるかも知れない。(『水とみどりのネットワーク荒川』と言う同事務所作成のパンフレットを説明) 環境を護るということは、生態系ピラミットをトータルに護ることである。日本にいる野生生物の約3割が絶滅の危機にさらされている中で、川はそれらの生物が生存する空間として、または通り道として不可欠の場所であり、荒川を中心とするエコロジカル・ネットワークを維持することが、生態系ネットワークを支えるものである。荒川の中流域は川幅が広く、ゴミの不法投棄も多いが、監視の強化とクリーン作戦の実施で徐々に減少してきている。旧流路を利用して作られた「荒川ビオトープ」は、隣接する北本自然観察公園と合わせて50ha以上のひろさがあり、サシバ(猛禽類の一種)の営巣を期待している。また、こうしたビオトープの維持管理にはNPOによる市民参加を検討している。
この後、参加者からの発言を含めて、意見交換を行い、夕食をはさんで、夜も熱心な議論がなされた。夕食時から、千島茂村長も参加され、議論はいっそう白熱化した。その全体を報告するのは、紙面の都合上、他の機会にするが、今回のシンポジウムによって、昨年の交流までには見えなかった新たな糸口がいくつか出てきたと言うことができる。以下列挙すると...
1.下流自治体等による環境を守るための基金の位置付けが明確にされた。下流・流域の人々が源流の自然環境に親しみながらその自然を守ることが、川を通じてつながっている生態系を守ることにつながる。
2.東大演習林は、広大な原生林と最先端事術を生かして、人間と自然の関わりを理論的・実践的に導く役割を果たしうる。
3.荒川流域の河川工事などでは、源流で伐採・生産される木杭やソダなどの原材料を使用することによって、原流域の経済を活性化し、山林を守ることができる。
4.荒川クリーンエイドで続けてきた大滝村との交流をさらに広めることによって、都市と山村との交流を活発化し、高校生などの山林作業体験や「川口っ子大滝村っ子の交流」のような子どもたちの山村体験を広めることが今後も重要である。
なお、今回のシンポジウムの報告集を別途作成中であり、9月までには完成して、関係団体等に配布する予定である。(報告:佐藤 正兵)
